京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

医療法人博侑会 吉岡医院
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休診日 木・日・祝/土(午後)
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ノロウイルス検査の注意点について

2018年1月17日

寒い毎日が続いております。
皆様お変わりありませんでしょうか。

医院の方は連日
風邪の患者様が多く来られています。

先週末からインフルエンザの患者様も増え、
例年は出だしから中盤までインフルエンザA型が多く、
終盤にB型が勢力を増してくるのですが、
今年は両方同じくらいの割合で検出されます。

特に治療法や経過に変わりがないので、
どちらにかかっても基本同じ扱いになります。

当院では一般の診療に来られた患者様と、
インフルエンザの患者様を分けるため、
発熱のある方は別室で診療しております。

受付の際発熱があることをお伝えいただくと、
係りの者がご案内いたします。
ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

 

さて、
インフルエンザや風邪と同じくらい、
この時期に流行するのが、
ウイルス性胃腸炎です。

その中でも感染力が強く、
時に集団食中毒の原因となるのが、
ノロウイルスによる感染性胃腸炎です。

今回はこのノロウイルスについて、
検査方法につていご説明いたします。

 

いわゆる胃腸風邪と呼ばれるような、
腹痛・嘔吐・下痢を起こす感染性胃腸炎は、
ノロウイルスが原因のことが多くあります。

飲食店での食事や仕出し弁当などで、
集団感染する食中毒事件の、
約半数はノロウイルスが原因と言われています。

感染力が強くいため、
飲食店やホテル、介護施設などでは、
細心の注意が必要となります。

 

当院にはノロウイルス検査キットがあり、
必要であればその場で調べることができます。

よく飲食店勤務の方、ホテルや宴会場の方が、
下痢をしたと言って当院に来られます。

大抵は管理者からノロウイルスかどうか、
検査するようにと言われてこられます。

 

ここで問題となることが2つあります。

 

1つ目は、
この検査は保険がきかないということです。
つまり自費診療となります。

保険診療でお受けになれるのは、
以下の方に限られています。

 

ア 3歳未満の患者
イ 65歳以上の患者
ウ 悪性腫瘍の診断が確定している患者
エ 臓器移植後の患者
オ 抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、
  又は免疫抑制効果のある薬剤を投与中の患者

 

この理由としては、
ノロウイルスと診断がついても、
特別な治療法があるわけではないためです。

例えば風邪をひいてインフルエンザと診断されると、
タミフルやリレンザといった、
抗インフルエンザ薬が処方され治療できます。

しかし、
ノロウイルスに直接効く抗ウイルス薬は、
今のところ処方薬にはありません。

ほとんどの場合、
他の感染性腸炎と同様に、
対症療法で自然に治癒します。

当院でも感染性腸炎の方は、
症状に合わせ整腸剤や胃薬などを、
5日間ほど処方し治療しております。

殆どの方は再診されませんので、
そのまま治癒されているものと考えています。

ただし高齢で体力のない方や
持病や内服薬で抵抗力がない方にとっては、
脱水などで全身状態の悪化を招くかもしれません。

ノロウイルスは他の腸炎に比べ、
嘔吐下痢の症状が時に激烈で、
もし原因がノロウイルスとわかったときには、
重症化しないかどうか見極める必要がります。

その為上に挙がっている方は、
保険で検査できるようにされているのです。

逆に持病もなく
一般に仕事され健康な方の検査は、
自費になってしまいます。

以上が1つめの問題です。

 

そして2つめの問題は、
その検査の精度にあります。

当院で行っているのは、
ELISA法と呼ばれる簡易迅速検査です。
便を用いて検査しますが約15分で結果が出ます。

この検査は費用も3000円ほどですむため、
比較的手軽にその場で診断できるのですが、
残念ながらあまり精度が高くありません。

 

ELISA法でノロウイルスを検出するためには、
検体(便ですが)1mlあたり100万個以上の
ノロウイルスが存在する必要があるとされています。

数を言われてもピンと来ないかもしれませんが、
ウイルスの量としてもある程度多くないと判定できません。
それだけ検出感度が低いということになります。

ただ嘔吐下痢の症状があるときには、
糞便に含まれるノロウイルスの量は1gあたり、
10億個ともいわれており多量に存在します。

 

つまり発症されている方の原因が、
ノロウイルスかどうかの見極めには、
ELISA法で診断可能ということなります。

 

問題は、症状がない方が、
職場でノロウイルスの方が出たとのことで、
調べてほしいと来られたときです。

 

ELISA法では100万個以下では
検査で陽性になりませんので、
陰性の場合でもウイルスの存在を否定できません。

 

発症していないだけで、
不顕性感染ということもありえるのです。

 

ノロウイルスは感染力が強く、
10~100個程度で感染、発病すると
言われています。

 

したがってELISA法で陰性であっても、
医療機関としては「感染なし」とお墨付きを与え、
現場に復帰して良いとはならないのです。

 

実際過去に、
検査で陰性となった調理従業者が、
復帰後に食中毒発生という事例が起こっています。

2007年のことですが、
学校給食の調理従者の1名が嘔吐下痢腹痛を呈し、
検査でノロウイルスが検出され自宅待機となりました。

その4日後の検査でノロウイルス陰性が確認され、
5日後より職場に復帰したのですが、
その翌日の給食が原因の食中毒が発生しました。

喫食者数5421人、患者数684人という、
たいへん大きな集団食中毒事例になっています。

この時の陰性を確認した検査が、
医療機関で行われたELISA方だったそうです。
その後高感度検査では陽性と診断されました。

ノロウイルスは症状は数日で改善しますが、
ウイルスの便中の排泄は一般に2週間、
長い時には1ヶ月続くことがあると言われています。

従ってELISA法ので陰性を確認するのは
調理従事者などでは行うべきでないと思います。

 

以上が2つ目の問題ですが、
ここの理解が一番重要かと存じます。

 

では飲食店では
どのような基準になるのでしょうか。

もっと精度の高い検査として
PCR法というものがあります。

ウイルスの遺伝子増幅検査で、
検出感度は1mlあたり、
100~1万個で陽性となります。

ELISA法の100~1万倍の感度
ということになますので、
桁違いの高感度です。

したがって飲食店等の
大量調理施設衛生管理マニュアルでは、
感染者の職場復帰について、

「リアルタムPCR法などの高感度検便検査で、
ノロウイルスが陰性と確認されるまでは、
食品に触れる作業は控えるのが望ましい」

とされています。

感度が高い検査ですが、
日数もかかり、費用も高額になります。
もちろん保険は効きません。

しかしながら衛生管理が必要な施設にとっては、
一度集団食中毒が起こると大変なことになりますので、
普段からきちっと検査はしておくほうが良いでしょう。

病院で簡単に済ましてしまうことは、
リスクを伴いますので、
その点はご理解いただきたいと思います。

 

ちょっと難しい話になりましたが、
何を目的としているかによって、
行う検査が変わってきます。

簡易迅速検査はあくまでも診断の補助として、
使用されるものであり、
食品衛生の安全性に寄与するものではありません。

ご参考になれば幸いです。

 

それでは皆様、
インフルエンザやノロウイルスに
気を付けてお過ごしください。