医療法人博侑会 吉岡医院

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新しい便秘薬:上皮機能変容薬とは?

2018年4月27日

ゴールデンウイーク前の、
爽やかなお天気が続いております。

今年のゴールデンウイークは、
中日の2日をお休みすると9連休ですね。
皆様はどこかお出かけされますでしょうか。

 

当院は暦通り、
5月1日と2日は通常通り診療いたします。
よろしくお願いいたします。

 

 

今回は前回に引き続き、
便秘薬のお話です。

 

日本では長年便秘薬として、酸化マグネシウムと、
センナなどの刺激性下剤などが中心を占めており、
新しい機序のお薬は全く出ておりませんでした。

私も研修医のときから、
下剤といえば「カマグ」、「プルゼニド」であり、
それらをベースに使用してきました。

 

それが2012年(もう5年以上も前ですが)
「待望の便秘に対する新薬」ということで、
商品名「アミティーザ」が発売になりました。

新たなクラスの便秘の薬としては、
なんと30年ぶりとのことです。

便秘の患者数が多いことからすると、
これほど長い間新薬が出なかった事自体驚きです。

従って私は医師になり20年ですが、
その間便秘に対する新薬は
全く出ていなかったということになります。

 

アミティーザに続き昨年には、
「便秘型過敏性腸症候群」に対する新薬として、
商品名「リンゼス」というお薬が発売されました。

 

こちらは単なる「便秘症」としてではなく、
主に腹痛などの症状きたす「過敏性腸症候群」の
便秘型の方に処方するお薬です。

 

「アミティーザ」、「リンゼス」とも、
薬剤の作用機序としては今までにないもので、
「上皮機能変容薬」というクラスに属しています。

 

酸化マグネシウムは「浸透圧性下剤」、
センナは「刺激性下剤」という分類ですので、
これまでのものとは異なります。

 

私も聞いたことのない作用機序の名称ですが、
これら「上皮機能変容薬」が一体どういうものか、
簡単にご説明いたします。

(説明できるかどうか、不安ですが・・・)

 

○ おさらい

酸化マグネシウムは腸内で炭酸水素マグネシウムとなり、
浸透圧維持のため腸壁から水分を奪い、
便を軟化することにより排便を容易にします。

またセンナという成分は、
腸管を刺激し蠕動を促進することにより、
下剤としての効果を発揮します。

 

○ アミティーザについて

アミティーザは小腸の粘膜上皮にある
クロライドチャネルという場所に作用し、
クロライド(Cl-)イオンを腸管内に移行させます。

それに伴いNa+イオンもCl-に引っ張られ、
受動的に腸管内に移動することで、
結果的に腸管内に水が分泌されます。

図で説明すると以下の様になります。

 

アミティーザ

(アボットジャパン株式会社パンフレットより)

 

ぱっと見てもなにかわからないと思いますが、
腸管上皮の細胞にアミティーザが作用し、
腸管内にClやNaが分泌されている図です。

(わかりにくいと思いますので、
雰囲気だけ掴んでもらえたらいいと思います)

 

この機序は今までの下剤とは異なり、
薬剤が細胞膜のイオンチャネルに作用し、
水分が分泌され便が軟らかくなる仕組みです。

今までのマグミットなどに注意を要する、
腎臓の悪い方への投与や高齢者にも使用でき、
また刺激性下剤とは異なり、
長期投与に伴う副作用がかなり少ないとされています。

 

私もマグミットで高マグネシウム血症が見られる方、
腎機能が悪い方に使用することがありますが、
よく効くため下痢になってしまうこともあります。

また時折吐き気や腹部の不快感が出ることがあり、
合う方と合わない方がおられると思いますが、
高齢者でも安全性が高く上手に使えば有用です。

なお、
妊婦さんには使用できませんので、
注意が必要です。

 

○ リンゼスについて

続いてリンゼスについてです。

リンゼスは病名が「便秘症」ではなく、
「便秘型過敏性腸症候群」という病名の方にのみ、
使えるお薬となっております。

実は医療保険を使用してお薬を処方する際には、
そのお薬に対する適応病名というものがあり、
その病名がないと使用できないルールになっています。

例えば風邪の患者さんに、
喘息のお薬を使おうと思っても
病名に喘息がなければ使用できません。

これはお薬一つ一つに、
効果が認められた適応疾患があるためで、
それと一致しなければ保険診療では使えません。

ということでリンゼスは、
過敏性腸症候群ではない単なる便秘症の方には、
ルール上処方できないことになっております。

 

では、
過敏性腸症候群とは何でしょうか。
ガイドラインには以下のように記されています。

「過敏性腸症候群は代表的な機能性腸疾患であり、
腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が、
慢性あるいは再発性に持続する状態」

「機能性」というのは、
ポリープや癌や炎症などの粘膜の変化がなく、
腸管自体の動きや働きに問題があるという意味です。

 

(因みにポリープや癌や炎症などの粘膜の変化で、
便秘や下痢などを起こす状態を「器質的」と表現します。)

つまり過敏性腸症候群は、
大腸カメラやCT等で何の異常もないにもかかわらず、
便秘や下痢などの症状が出る状態をいいます。

 

それではなぜリンゼスは、
「便秘型過敏性腸症候群」に対する
お薬となってるのでしょうか。

それには今までの便秘薬にはない、
特殊な作用機序があるからとされています。

 

さて、その作用機序ですが、
同じ様に図が用意されていますので、
お示しします。

(理解していただかなくて結構です。
・・・私もあまり理解していません。)

 

リンゼス

 

前述のアミティーザ同様、
リンゼス(リナクロチド)が腸管上皮細胞に作用し、
水分分泌を促進することで便通を改善します。

ここまでは便を柔らかくする
従来の下剤と変わらない作用です。

 

ここで上の図の、
下の方に目を移してください。
「内臓痛覚神経線維」と言う言葉があります。

リンゼスはその内臓痛覚神経線維にも作用し、
痛みや不快感を改善するとしています。

この作用こそが、
「便秘型過敏性腸症候群」に有効と
認められた部分です。

今までの便秘薬には便を出しやすくするだけで、
腹痛や腹部不快感の症状を、
和らげる作用はありません。

その面では、
リンゼスの存在感は他の便秘薬と異なり、
際立っていると思われます。

 

確かに図にあるような、
あたかも見てきたかのような作用が本当にあるのか、
少々疑問ではあります。

しかし実際には、
便秘型の過敏性腸症候群の患者さんに使用して、
効果が見られることが多くあります。

過敏性腸症候群の痛みや不快感は、
かなり個人差が大きい病態ですので、
この1種類で解決する問題ではありません。

ただ今まであまり有効なお薬が少ない分野ですので、
有力な選択肢の一つが増えたことで、
実際の現場ではかなり重宝されると思われます。

 

○ 問題は新薬の薬価

このように、より効果の高い新薬は、
皆さんにも気軽に使用できるといいのですが、
概ね既存のお薬よりも値段が高いです。

特に30年前に発売された、
作用機序のシンプルなお薬と比べると、
だいぶ変わるのです。

 

薬価をお示しします。

リンゼスは1錠 あたり薬価89.9円。
標準量は1日2錠で179.8円/日。
(お支払いはこれの1割~3割負担になります)

またアミティーザは1カプセル123円。
1日2回内服するので、246円/日。

これの3割負担として1日73円ほど、
1ヶ月にすると2190円になります。

これに比べてマグミットは薬価で1錠5.6円。
1日3錠でも16円程です。
これを3割負担では1月たったの151円ほどです。

 

つまりマグミットを基準に考えると、
リンゼスで約10倍の値段、
アミティーザでは15倍になります。

従っていいお薬だから過去のものをすてて、
新薬に置き換わるというのはしばらくの間は無さそうです。
マグミットで効果があればそれが1番です。

アミティーザの使用感覚としては、
マグミットと同程度と思われます。
対象となる患者さんも同じような方々です。

そういう意味では、
アミティーザをどのような時に処方するか、
十分検討しなければならないと思います。

 

一方リンゼスには、便秘に対する効果と、
それに加えて腹痛、腹部不快感に対する効果があり、
そこにはオリジナリティがあると思われます。

それなのでどちらかといえば、
アミティーザよりもリンゼスのほうが、
使用頻度が多くなるかもしれませんね。

 

 

分かりにくい説明だったと思いますが、
この数年で発売となった新規の便秘薬について
ご説明いたしました。

便秘は身近な症状ですが、
その病態は様々で奥が深く、
治療に困ることも少なくありません。

その意味では約30年のブランクを経て、
新しい機序の便秘薬が加わったことは、
臨床的には大きな出来事です。

 

新しいお薬はいい面が多いことも事実ですが、
薬価が従来の薬に比べ高額でありますので、
状況に合わせうまく使い分けることが大切なのです。

 

 

吉岡医院  吉岡幹博

 

(注)
2018年8月、リンゼスの効能・効果に、
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)が
追加されました。

これにより過敏性腸症候群でない方の、
一般的な便秘症の患者様に、
健康保険での処方可能となっております。

 

 

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