京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

医療法人博侑会 吉岡医院
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プライマリ・ケア学会に出席しました

2018年12月7日

12月に入っても暖かい日か続いていましたが、
今週末は急激に寒くなるようです。
気温の寒暖差が激しく、
体調管理が難しい時期でもあります。

医院ではインフルエンザの患者様が、
少しずつ出てこられました。

 

12月に入りようやく
中断していたインフルエンザワクチンの
入荷の見込みが立ちました。

今からでも遅くありませんので
まだ接種をされていない方は、
ご検討くださいませ。

 

 

今週の日曜日京都、北山で開催された、
「日本プライマリ・ケア連合学会近畿地方会」
に参加してきました。

 

「プライマリ・ケア」
あまり聞き慣れない言葉と思います。

 

プライマリ(Primary)とは、
初期の、最初のという意味があります。
ケア(Care)は管理、医療という意味があります。

「プライマリ・ケア」は
初期に行う医療という意味となり、
一般的には家庭医療や救急医療を指します。

学会によると、
「身近にあって何でも相談にのってくれる総合的な医療」
を指すそうです。

われわれ開業医の医療であったり、
病院の総合内科や救急外来での医療が、
プライマリ・ケアに当たるようです。

 

そのような方が対象の学会ですので、
看護師さんやケアマネジャーも含めた
在宅医療などがテーマとなっていました。

地域で認知症の患者様を
どのように診ていくのか、
救急の体制をどうするかなどです。

どちらかというと、
専門科の集まる学会と異なり、
コメディカルも含めた多職種で考える
そんな学会です。

 

そのようなプログラムの中に教育講演で、
「がんゲノム医療の臨床実装」という
講演会を見つけました。

京大病院でがん医療を統括されている
武藤先生のご講演です。

ゲノム医療という内容からすると、
最先端のがん治療の講演です。
こういう講演会はとてもワクワクします。

 

ゲノムというのは染色体のDNAの含まれる、
全ての遺伝情報のことを指します。

先日中国の研究者が「ゲノム編集」と呼ばれる
遺伝子操作を行って双子を出産させ、
大変な批判を浴びていましたが、
まさにそのゲノムのことを指します。

 

これまでの医療は、
同じ病気の多くの患者さんを2群に分け、
2つの異なる治療法を行いその優劣により導かれる、
いわゆる「エビデンス」に基づいて実施されてきました。

EBM(Evidence-based Medicine)という言葉があります。
医師が独断で治療するのではなく
科学的根拠に基づき標準的な治療を行うことです。

私が医師になった20年ほど前から、
免罪符のように用いられてきた用語です。

 

「ゲノム医療」は個々の患者様の遺伝子の情報をもとに、
治療に結びつける医療です。
従って例えば同じ胃がんにかかったとしても
一人ひとり異なったお薬を用いて治療することになります。

EBM全盛の時代からの大きな転換と言えます。

 

またこのゲノム医療は
テクノロジーの進歩の賜物でもあります。

 

遺伝子を調べる方法に、
「次世代シークエンサー」という機器が登場し、
全ての遺伝子解析が可能になりました。

20年前にはおよそ100億円かかっていた遺伝子検査が、
最近では10万円程度でできるようになり、
時間も大幅に短縮されたそうです。

これにより遺伝子の検索は、
研究レベルではなく日常診療レベルで可能となり
その情報をもとに医療を行えるようになりました。

 

また癌の遺伝子情報も癌組織そのものを採ることなく、
血液から得ることができるようになりました。
採血を行うだけで簡単に調べられるそうです。

 

こういった遺伝子をもとに行う医療を
「Precision medicine」(精密医療)とよび、
欧米を中心に急速に発展しているそうです。

 

癌はDNA上に起こるDNAの変異により、
異常な蛋白が増殖することで起こります。

それはたとえ同じ臓器のがんでも、
ゲノム異常をきたすDNAの変異は多岐に及び、
その異常に合わせて有効な治療薬を選択します。

これが今まで臓器別で行われてきた、
EBMに基づいた均一化された治療と異なり、
個々の症例のゲノム情報から最適な薬を見つける、
これが「がんゲノム医療」と呼ばれるものです。

 

大変希望がもてるお話ですが、
課題もまだまだあるようです。

 

実際に遺伝子の異常を発見できても、
多くの薬剤がその癌に適応外であったり、
特許、再審査切れで使用できなかったりするそうです。

そのため実際に治療を受けられる方は、
遺伝子検査を受けた方のごく一部の方に
限られるとのことです。

 

また別の問題として、
目的以外の遺伝子変異が見つかった時の対応です。
3%ぐらいで見つかるそうです。

例えば将来ほかの重篤な病気になる
遺伝子変異が見つかった場合、
それを伝えるかどうかという問題です。

 

これには専門家による
遺伝カウンセリングの構築も
必要とされるそうです。

 

このようにゲノム医療は、
今までの常識を覆す全く新しい医療です。
これからはお一人お一人に合う精密医療、
これが主流になっていくのかもしれません。

大規模臨床試験で勝ち残った結果をもとに、
均一化された医療を行うのは、
もはや時代遅れになるのかもしれません。

 

講演の中でもおっしゃっていました。
これからはその人にあった医療を
選択する時代ですと。

 

例えば、

レストランでご飯を食べるときに、
そのレストランでアンケートを取って、
一番人気のメニューしか食べられないとしたら、
皆さんはどう思われますか?

やっぱりその時に自分の食べたいメニューを
選びたいですよね。

 

「Precision medicine」は考えてみたら当然の、
医療の形かもしれません。

しかしそこはまだ始まったばかりで、
今後さらなる知見や技術の積み重ねが、
必要とされている段階かと思います。

 

今回参加したプライマリ・ケア学会は、
大変身近な地域医療からがんの治療まで、
幅広いテーマでとても勉強になりました。

これからの診療に
活かしていきたいと思っています。